もうずいぶん前の話になりますが、秘密のヤマメ川を教えてもらいました。
荒れ果てた下流の様子とは違って、上流まで上りつめると、それは大きなヤマメが
たくさん釣れるとの話。
そこまで桜鱒は上ることができないので、もしかすると陸封された貴重な魚なのかも、
と夢のような話でした。1人勝手に行くのも悪いと思ったので、気にはなっていましたが、
頭の中で夢を描くだけで、その地を訪れることのないままもう何年たったでしょう。
長雨でどこも釣りになりそうもない中、悶々としていると、ふとその川のことが頭に浮かびました。
想像と妄想を膨らませているうちに、小さな町に着きました。
濁った小さな川が流れていますが誰もこの川で釣りをしようとは思わないでしょう。
民家の裏を流れる濁った川を上流に向かい上っていくと、気がつけば
見るからに山親爺が現れそうな深い森。車止めまでやってきて、車を降りれば
ほのかに獣の香り。こんな時は間違いなくそばにいるものです。
一瞬、ひるみましたが、秘密の大ヤマメのことを思い出し、自転車に乗り換えて
さらに奥を目指します。
川に降りてみれば、確かに細々としていながらも綺麗な水が流れ、期待できそうです。
そして、もうひとつ予期した通り、泥の上には2、3日前のものらしき1尺はありそうな
見事な獣の足跡が点々と見て取れます。
ドキドキしながら、清冽な流れに毛鉤を流し、上り、流し、上り。
ここに居なければどこに居る、と言えそうな鉄板ポイントも
小さなポケットも。できることは全てやってみましたが、結局、魚の姿らしきものは
ただ一つも確認できませんでした。
考えられることは、多分、以前にこの流れにどこかの好き物が、自分だけの
隠しヤマメを放流し、ひっそりと楽しんでいたのでしょう。その後、魚が放たれなくなった流れは
元の空っぽの流れに戻った、そんなところではないでしょうか。
この地のヤマメは桜鱒となるために、皆、海に下ってしまい、閉ざされた場所では
世代交代をしませんから。
この綺麗な流れがこの先もずっと空き家のままである、というのはちょっと
もったいない気がしましたが、熊の気配が相当に濃密なだけに、それで
いいのかもしれません。
夢から醒めて、畑の中を流れる沢で遊んでみると、ヤマメが次々と釣れますが
いつのまにかすっかり秋の装い。シーズンは終わりです。
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