2011/06/09

無音楽

 山路を登りながら、かう考へた。
 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
 住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟つた時、詩が生れて、画が出来る。
 人の世を作つたものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向ふ三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作つた人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行く許りだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくからう。
 越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。こゝに詩人といふ天職が出来て、ここに画家といふ使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。


とてもとても有名な『草枕』の冒頭です。
この通りだとすると、あっちもこっちもどっちも窮屈、先詰まり。
もううんざり、というところで芸術が生まれる、と読み解くこともできますが
さて、実際どうなんでしょう。
私の場合は、全く逆のような気がしてます。

最近、仕事のことでどうにも身動きとれず、
おかげでキモチもがんじがらめになり、多分、そのせいで
音楽を聴くことも本を読むことも全くなくなってしまいました。
そんな状況も少しは緩和され、
久しぶりに1日、ダラダラ釣りに行ったところで
やっと好きな曲を愉しむことができ、
いつ以来なんだろうと真面目に考えてしまった次第。

夕闇の釣り帰りに車で聴いたRideの"Time Machine"が、
大昔に私を連れ戻してくれました。


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