『デルスー・ウザーラ』という名で出版されている
アルセーニエフのシベリア沿海州探検記を読んでいると、
「凍寒」に「マローズ」という仮名がふられてある表現に何度か出会う。
マローズというロシア語の語感が、凍寒という見慣れない漢字に
ぴったりに思える。
『私はいそいで外へ這い出して、思わず手を目でふさいだ。あたり一面、雪また雪だった。
空気は新鮮で、透きとおっていた。凍寒(マローズ)だった。空にはちぎれ雲がうかんでいて、
ここかしこに青い空が見えた。あたりはまだ薄暗かったが、しかしもうすぐ太陽の出てくる
のが感じられた。雪に倒された草が縞模様をなして伏していた。デルスーは、乾いたボロ切れ
など少しばかりよせあつめ、小さな火をおこして、その上で私の靴をかわかしてくれた。』
デルスー・ウザーラ/長谷川四郎訳
きっと「シバレ」と同じような使われ方ではないだろうかと想像する。
「シバレ」は、方言辞典のようなところでは、ただ「寒い」と同義に
されていることがほとんどだけれど、実際はちょっと違う気がする。
雪に埋もれたり、風が吹いたりして「寒い」のではなくて、
シンシンと染み入るような静けさの中、足元からジワジワと上ってくる
凍えが「シバレ」だと思っている。
吹雪が、顔やら首筋やらに雪がぶつかり、入り込んでくる汚い、イライラさせる冷たさならば
シバレから受ける感覚は、もっと綺麗な冷たさ、凍えの純粋な析出なのでは?
前日の嵐の後、東に抜けた低気圧に向かって強い寒気が流れ込んだようで
朝方、好天も相まって、凍寒(マローズ)がやってきた。
氷点下23℃近くまで下がったらしく、宿の主人曰く
「四十数年ここに住んできて、こんな寒さは初めて。」
とのことだった。
内陸ならまだしも、海の近いこの地域では、相当のシバレだったらしい。
ワゥワゥワゥと今にも消え入りそうなセルの音にお尻の穴がキュッとしながらも
どうにかエンジンは目を覚まし、無理とは思いつつ、一応は川へ向かう。
予想通り、大量の蓮の葉氷が川面を埋め尽くし、浅い川底は綿を敷き詰めたように
凍りついている。
川岸の木には、びっしりと氷の華が咲いていた。
鷲がいたとか、ここは釣れそうだとかとあちらこちらを眺め、
町に戻ってひと休み。
昼を迎えたところで川に向かってみると、どうにか流れる氷だけは
少なくなってきたようで、一応は釣りをしてみるが、あまりに寒過ぎた。
数珠のようになったフライラインを見てみな笑う。
川はすぐに上がって、この日はラーメン。鉄板でした。
帰りの高速は、いつ降ろされてもわからないような酷い雪と風。
今、走っている路線以外はほとんどストップしているような
綱渡りの綱の上をヨロヨロと戻り帰宅。
久しぶりにいい旅をしたなあ。
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